数字が…
魔力を持っているらしい…

そういう世界もある





「スドミタスの機動隊が来たぞ!!!」

「レビラトだ…っ!!!」
「レビラトの方程式を守るんだ!!」





「数学者さま!!」

「投石の方程式…」





「ぐおっ…ぁ!!!」

「うごっ!!!」











「なんで破裂すんだよ!!!」

「浮遊の方程式は二次方程式だろ…」
「3ケタでいいのに5ケタにしたのかっ!?」

「オレを帰してくれる気あるの!!?」

「安心してクドナ!」
「キミのロマンのためにオレ…がんばるから」

「がんばるから…」
「5ケタじゃ強すぎるってんだろーが!!!」





これでも前はオレも人間だった…
今は変身の式を使ってこの姿をしている

偶然飛ばされてしまったこの世界では
決まった数式を紙に書き計算すると

魔法を起こすのだ

「クドナ! 見てよ! 浮いたよ」
そんな世界でオレを拾ってくれたのがコイツだ

ところがコイツが とんでもないダメ数学者で
リンゴ一つ満足に浮かせられない
数学が得意だったオレはコイツに教えながら
もう2ヶ月を一緒にすごしていた
「ぺ…」
「はいはい ちゃんと見てますよ」





「ここにいたかクドナ…」
「!!」
「あいかわらずドームの訓練してるのか」

「モース教授」

「空間転移(レビラト)の方程式の情報を手に入れた」
「港へ行こう」

「ほ、ほんとに見つけたのか…っ!?」
「クドナ帰れるの!?」
「え… ええ…見つけました」

「3年前から発掘を続けて昨日ようやく
レビラトを発見したのですが…」





「圧倒的でした…」
「発掘現場がスドミタス帝国との国境だったために
スドミタスの機動隊に見つかり 襲われて奪われて…」

「レビラトがどこに持って行かれたか わかるか?」
「ええ…おそらくスドミタスの空中博物館に」

「空中博物館?」
「!」

「あと3年だけ待ってくれ…」





「キミのような貴重な存在を危険にさらしたくないのだ
…私は 数学を…愛している」
「あと3年だけ待ってくれ…そしたら必ずキミを…」

「冗談じゃない!!」
「3年もたったら… 中学生になっちまうじゃんか!!」

「それに誰かがレビラトを使っちまったら…」
「問題文が消えてオレは帰れなくなるんだぞ…」

「ノートに写して使えば本文は残る
それにレビラトの使っている量子力学はこの世界でキミしか解けない」

「キミは知らないんだ…空中博物館のおそろしさを」





「スドミタスの数学を全て記録保存している博物館で…
発掘した量子数理エンジンを使って… 博物館自体が空に浮いてるそうだ」
「常に有能な数学者が待機して セキュリティーも万全だと聞いた」

「だいたい この国と不仲のスドミタスに
どうやって入るつもりだ」
「それは…その」

「空中博物館にある限りレビラトには手が出せないんだクドナ!」

「ありがとうモース教授」
「あとは自分でなんとかする」

「もうっ モースったら」
「ロマンの無いこと言って!!!」

「待ってよクドナーっ」
「…あれで私と同期なんだよなぁ…」





方程式は問題式と解答式の2つの文で構成されている

問題式を魔法のエネルギーだとすると解答式はそのスイッチ
正しい解答をし魔法を発動すると…

問題式も解答式も消えてしまう

レビラトの方程式はずっと昔に失われてしまったために
問題式は発掘された石版にしかもはや存在しない
レビラトが無ければ元の世界に帰れない

「頼むよ行きだけでいいんだ…
スドミタスに連れてってくれない?」
「バカ言うな入国した途端にハチの巣だぜ…他を当たってくれ」





「ムリムリ」
「ダメダメ」

「どいつもこいつもスドミタスって言っただけで断りやがって…
ヨットも漁船もダメとなると…」
「次はフェリーにあたってみるか…」

「フェリーもダメだぞ」「!」

「教授…」
「もう5年ほどスドミタス行の船は出てないと断られた…」
「ヨットのほうに期待して来たがダメのようだな」





「やはり…いち数学者がどうにかできることじゃない」

「しょうがないな…
あんまり使いたくないけど…」

「使うか!」





「お」「こ、これは…」

「空中博物館が使ってるのと同じ物…
量子数理マトリクスだ まあコンピューターだな
勝手に方程式を計算して浮力を生み出している」
「…キミは本当に天才だな…」

「こいつを使えば…」
「スドミタスまでひとっ飛びできる!」

「でも重たくてオレじゃしょえないから…」
「から?」





「操縦も…こいつなんだ」
「まっすぐ!! ドーム!!」

「…なんとか まっすぐ飛ぶようになった
さすが教授 教えるの上手なんだな」
「まぁな…」

「それよりもうスドミタスの中心あたりだ」
「…ほら見えてきたぞ」











「なにが難攻不落の博物館だよ
睡眠の方程式すら防げないなんてさ…」
「今日は休館日らしいが…」
「噂ほどではなかったな
それよりレビラトは解けそうか?」

「ああ まかせとけ
三十分もあればこの世界とはおさらばさ…!」





「ねぇ…クドナ 変なこと聞いていい?」「ん?」

「本当に帰りたい?」
「当り前だろ!!」

「もちろん協力するよ
オレはキミが好きだし邪魔するつもりは無い…」
「キミのその…帰りたいって気持ちの大きさは知らないけど
オレもモースも本当は…」





「本当はキミに帰って欲しくないんだ…」

「な…」
「なにを勝手な…」





咄嗟に… はじいてしまった… …鎖を!?

なんだ…!? この鎖…!!

「クドナ!! 急げ!!」
「私がくい止めている間に!!!」





「まさか機動隊…!? モース教授」

「レビラトは元々私の国の物…返してもらう」
「だからここを通すワケにはいかないのだ」

「この 幾何学の剣士 モースが止める!」











「この剣で切られた方程式は」
「ベクトルを失って停止する…!!!」

「クドナには指一本…
!」





「教授ーっ!!!」

「!!!」





「しまっ… 石版の重さで」
「モース!!!」





「!」

「クドナーっ!!!」

「よそ見している場合じゃあないのでは?」
「モース・フルート教授」

「今… なんと?」

「ボクですよ ターケです モース教授」





「ィっ…」

「クドナ! だいじょうぶ?」
「ダメだ… 腕が折れてる」

「そんな…! レビラトはどうするの?」

「お前が解くんだドーム!」
「オレが教える 石版はそこだ…失敗はできない」

「お…オレが
量子力学を…!?」





「バカな…!! たしかにターケは私の大学にいた…しかし顔が…」
「私が大学から追い出したターケと顔が違う…」

「まさか… 変身の式を使って…」

「ということは完成したのか! 一万の一万乗の鎖が…!!」
「その研究が危険だから大学追放処分にしたというのに!!」

「この国では数学者なら なにをしても許されるんですよ
貴重な石版を他国から奪っても…ね」

「だから 石版は返しませんよ」





「爆撃の方程式は効かない…直接剣で攻撃!!!」

「すっかり… おろかになったな」





「停止から破砕の式に切り替えた…」

「触れた途端にくだかれるぞ…そうだ」

「やつは手足を剣に変身させているんだ」





「しかしね数学は進化するんです」
「石版の式だって解けるのはそう遠い日じゃない」

「あなたはもう古いんですよ」





「あと三行で完成だ…!」

「!!!」





「機動隊を全滅させるとは…
さすがは幾何学の剣士と言ったところ」
「しかしボクには勝てませんよ」

「クドナ!! 高位方程式で攻撃を…!!!」
「ダメだ…腕が使えない」

「そ…」「んな」「!」

「甘かったな」





「どうやって…モースまで仲間にしたか知らないけど」
「モースが世界で一番有能な数学者だったのは過去のこと
ここを甘く見ましたね」

「さあ 石版を返…
!」

「解答文が足されて…?」

「まさかキミが…!?」

「!?」

「そうだ!」
「!」
「彼は唯一この世界でその石版を解くことができるのだ
私なんか足元にも及ばない…当然キミなんか敵になぞならん」





「彼は…」

「自在に空を飛び回れるし、物も飛ばせる
空間さえ彼を支配できない」

「彼は…」

「量子力学の戦士だ!!」





「ふ…ふざけたことを!!!」
「たとえそれが本当でもボクには絶対勝てない!!」

「新技術!! 単純に巨大な数字の力…!!
私を『1』とした一万の一万乗!!!」
「モースの剣でさえ停止できない!!!」

「ボクを追い出したモースなんかに負けたりしない」

「な…っ 鎖が数字の『0』…!?」

「ドーム!?」





「オレは約束を守る キミのロマンのために
別れが…つらくても」

「お…オレ」
「オレはキミを守る量子力学の戦士だ!!」





「!」

へぇ〜…
ほんとうに獣になっちまった…あんな数字で…

じゃあココは本当に違う世界なのか
まあ…どうでもいいけど





「!!!」

「飛行機のプログラムは量子力学だったはず…それを…
あいつ…まさか本当に…」





「あと3行ぐらい口でなんとか…」

だから…まあ…たぶん
そのレビラトの方程式っていうのとオレの解いていた問題集が
偶然同じだったんだ
まあ…どうでもいいんだけど

え? 数学を教えてくれって?
んー そうだなぁ…

レビラトがあれば確実に帰れるんだよなぁ
そうだな…どうせ 違う世界に来たんだから…数学を教えるかわりに
オレ…やってみたいことがあるんだ
大したことじゃない…





クドナ… でも…やっぱり… それは…

それは 難しいよ…

だって… 帰ってほしくないから…

「!!!」





「バカめっ!!! 力押しだけではないのですよ!!
このまま外へ放…」

「!!!」

「ちょ…待
ぶっ」





「!!」

「剣が『1』鎖が『0』の大きな数字…それを飛行機の浮遊マトリクスに刺す
ケタを間違えた式はリンゴのように破裂する…!!」

「鎖は壊れる!! 石版は守る!! クドナは帰る…!!!」





「にゃ にゃめ…」

大したことじゃない…
約束な!
最後の最後にその時が来たとしても…





約束…

「ドぉーム!!!」

「約束…ドーム どうすんだ…」

「クドナこそ約束破るつもりじゃないよね…?」
「!?」

その時が来てもお前は一人で大丈夫だって、そういう顔をして…
楽しく…ピクニックにでも行くみたいにさ





笑顔で… さよならしよう





クドナ帰還から1年後

フルート大学

「空中博物館の貸し出しって今日だったんだ? 貴重な資料源
スドミタスと仲直りできて良かったね」
「まあ国交の妨害にターケが関わっていたからな…」

「また勉強か? 最近私より勉強してないか?」





「石版は真っ白になったからさ…」
「いっぱい いっぱい勉強して自分でレビラトを作って…
もう一度クドナに会うんだ!」

「オレは…量子力学の戦士だからさ」
「お前も変わったなぁ」

彼らがクドナに再び会うことは二度と無かった

しかし量子力学でも解けないのなら…それでも
彼らの絆が消えることは無い


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