「あ〜ぁ」

「また 見えなくなった」





「あらデールからだわ」

「ありがとう郵便屋さん」

「さぁ…」
「あとひとつで仕事終わりだ!」





「え〜っと… クェイルからナハトへ…」

「…あれ?」

「ボクに だ…」

「別にたいした用事じゃない」

「ちょっとナハト… 君に」
「聞きたいことがあってさ」

「別に手紙じゃなくてもいいのに 毎日会うし」
「確信がなくてな」

「うっ…」





「私の周りでは 強い思いは形になる …具現化するんだ
キミも知っているだろう?」

「?」
「キミの瞳に映っている… よくないことが…」

「…最近 光る蝶を」
「見たことないか?」





「へ?」

「見えているとしたら… ナハト…!」
「絶対それは追いかけるな!!」

「それはお前の中に眠っている『帰りたい』という
強い願いだ!」

「昼間ならまだいいが…
もしも夜に…」





「…すまない… 君は
私の力を受け入れてくれる数少ない人物なのだ…
少々過敏になっているかもしれない…」

「とにかくナハト…
これだけは忘れないでくれ」

「君は私の親友だ
私は君を失いたくない」

「難しい話だったな …まぁ紅茶飲んでゆっくりしていけ」

(クェイルの話はいつも難しいなァ)





「夜…」
「か…」

「ちょっとだけならいいよね…」





「本当に…出てきた…」

「…どこへ」
「帰るんだろう…」











「街だ…」
「森の中なのに…」





「ねぇ! キミ!!」
「この街っていったい…」

「!!?」
「お、おいっ 夜渡竜がいる!!!」

「!!」

「?」





「やつらの仲間か!!?
夜渡竜が…!!?」
「“交換機”を破壊する気なのか!!?」
「まさか…
“オリジン”本体ではないから安全なはずだ!!」

「夜渡竜!!?」
「?」「?」

「壊される前に殺せ!!!」





「危ない!!!」

「本物の…夜渡竜…
なぜ…」
「どこから来たんだ!!?」

「夜渡竜ってのは知らないけど…
ボクはあすこの階段から…」

「?
あれ?」





「まぁそれは後だ!!」
「とにかく夜渡竜 交換機を壊してくれ!!!」

「交換機が雲… 黒い雲を生んで街を夜に沈めた
もう数年間街には朝が来てないんだ!!」

「その交換機って…」
「どこにあるの?」

「人質だ! おとなしくするんだな!」
「・・・・・」
「え〜っと…」





「おまえのせいだ夜渡竜…」

「なっ…
さっきはボクしかいないって言って…」
「ボクだっていい迷惑だ!!!」

「ようやく盗み出せたんだから 壊せなくても隠してしまえばよかったんだ…
王が変わって夜が来たとき突然消えたクセに…」
「なんで今ごろ出てきたんだ夜渡竜…!!」

「だいたいボクは夜渡竜じゃない
ナハトだ!!」
「この街へは蝶が…」





「夜渡竜じゃない…?」

「空洞の腕…」
「黒い体に 黄金の瞳…」

「どう見たって夜渡竜だ」
「空間を…」

「!!」

「そうだ夜渡…いや ナハト!!」
「?」

「オレはゾーン」
「お前 なんにも知らないみたいだから 教えてやるよ!」





「夜渡竜は空間を操る!!」

「!?」

「5年くらい前に王が変わり発電所が出来て
朝が奪われる前までは街に夜渡竜がいたんだ
普通に暮らしてたんだ」
「やつらはその能力を利用して郵便配達をしていた
だから別名“郵便竜”と呼ばれてた
昔の話だけどな…」





「ナハト! お前の能力を使えば…
この牢屋を脱け出せる!」

「オレを発電所へ連れてってくれ 朝日を取り戻すんだ!!」

「そ…! そんな!!
ボクには でき…
な…い…」

できない…
できないという… つよい思い





もしかして…

強い思いが…

もしかしたら…

強い思いが…!!!





ボクたちを外へ…!!!!

「夜渡竜!
王がお呼びだ!!」
「え〜っと…」





うわ〜…

「さっさと歩け!」





「私がこの街の王 アーベントだ
ナハト君に頼みが…」

「その前に聞きたいことが一つあるんだ」
「!」

「ゾーンが言ってた
朝を奪ったのはお前なのか?」

「・・・・・」
「いかにも」

「しかしキミは勘違いをしている…」





「…見たまえ」

「交換機は“電気”を作っているのだよ」
「黒い雲は副産物にすぎない」

「たしかに街には朝がこなくなったが それでも彼らは幸せに暮らしている
彼らに“電気”は不可欠なのだよ!」

「彼らから灯火を奪うのは罪と言うものだ
だからはあの小僧にある 交換機を…電気を奪ったからな!」





「ぞっ…
ゾーンはいいやつだっ!!
たぶん…

「それに…
よくわからないけど…」

「電気とかいうの作らなければ 雲が無くなって朝がくるじゃないか!」

「電気の配給が私の権力だ! それは無くせん」
「それに雲が無くても夜は毎日やってくる」

「今は手紙も電気で届ける時代なんだ!」
「街の皆も電気を手離したりしないだろう」

「…っ」

「アーベント王!!!」
「!」
「大変です!!!」





(今日じゃないとダメなんだ…!!!)

(成功するっ…!! 何者かは知らないけど…)

(あの蝶が導いてくれる!!! 成功への道に!!)





「脱走…?」

「!」

「そうか… 檻に穴あけたまんまだった…」
「発電所に向かったんだ…きっと」

「ちょうどいい…」

「我々も発電所へ行くぞナハト!!」





し、死ぬ…
「ハァ」「ハァ ハァ」「ハァ」

「!!」











「また会うなんて…
この…」

「発電機に」





「そういえば あの箱みたいなもの…」

「オリジンだ」

「!!!」

「超古代のエネルギーバッテリー“オリジン”!!
そしてそれこそがこの街を支えている心臓でもあるのだ」

「ナハトっ!!?」





「ねぇ ゾーン…」
「電気を奪うことが本当に正しいのかな…?」

「っ!?
お前だって」
「発電機が街にどれだけ有害か知ってんだろ!?」

「オリジンは無害だ」

「オリジンから溢れてくる光子状のエネルギーを
交換機が電気に変換する時発生してしまう雲…」

「あの雲は副産物だ」
「しかしそれも日光をさえぎるだけでそれ以外の害は無い」





「それと…」

「夜渡竜を仲間にし交換機を盗んだようだが…」
「夜渡竜にしか壊せないのは交換機ではなく“オリジン”のほうだ」

「なに…っ!?」





「空間を操り物質をゆがませる夜渡竜の能力」
「その能力だけがオリジンの外壁に穴を開けることができるのだ」

「実際… 発掘されたオリジンに穴を開けてくれた
そして今はその穴から溢れるエネルギーを使って
電気を作って街を支えているわけだ」

「大量の夜渡竜の犠牲のおかげでな!」





「オリジンの穴を広げる時 突発的にエネルギーが噴出してしまい」
「その度に夜渡竜が蒸発していって
今の穴の大きさになるまで百あまりの犠牲が出たのだ」

「街のためと頼んだら」
「彼らは喜んで死んでいったよ」





「キミに頼みというのは他でもない」

「最近街も電力不足で困っていてな…
オリジンの穴を広げて欲しいんだ キミに…」

「街のために死んで欲しいんだ!」





「…ト!! しろ!!」
「ナハト!! 返事しろ!!」

ボクは 夜渡竜…
朝を奪った…

「そいつの言うことなんか気にするな…!!!
とにかく発電機を壊すんだ!!!」

「やれやれ…
小うるさいネズミだ…」

















「重力…」
「兵器…」

「朝を…」

「朝を奪い まっくろな 幸せを作って…」
「そのために 夜渡竜を 殺した…」

「そしてあんな箱のためにゾーンを殺そうとした…
お前を… ボクは…」

「ボクは
お前を」
「お前を…」





「お前を許さない!!!!」

「ならば闇へ帰れ夜渡竜…!!!」





「私に協力してくれないと言うのなら
貴様は唯一オリジンを壊せる脅威の存在!」

「それゆえ幸いオリジンは何をしても壊れない」

「全力で排除する」





「ちくしょうココが壊れてもいいってのか…」
「ねぇ ゾーン」

「?」
「ゾーンは逃げて ボクは戦う」





「ボクは夜と戦う!!」

「?」

「!!!」
「ナハトっ!!!」

「!!!」

「そういえば…」





「!!!」











「排雲塔が崩れた…」
「空間移動の能力か…」

「それなら…!!」

「ゲホッ ゲホッ」 「ゲホッ ゲホッ」

「?」





「!!!!」

「がはっ!!」 「ゲホ」 「あっ… ぐっ!!」





「郵便なんてもう時代遅れなんだよ!」

「街のために死んだほうがまだ幸せだったろうに」

「ハァ ハァ」 「ハァ」 「ハァ ハァ」

違う…
街のため…? 違う…
街のために夜を…?
違う… 違う…

やっぱり…
街には朝が必要なんだ!!!





「待ってろ
ひとおもいに つぶしてやる」

「まてぇえぇ!!!」
「!!?」

「お前さっき言ってたよな」
「交換機が電気から雲を作ってるってさ…!!!」

「じゃあ雲からは電気が作れるんだろ!!?」

「!!!」





「くらえっ!!!!」





「ふんっ」





「少々驚かされたがお前は間違っているぞ
今のは雲に残っていたオリジンのエネルギーのカスが電気になったのだ」
「ところで…」

「そこだと よけられないだろう? ゾーン警護隊長」

動け… 動け…動け…!! 立て…!!
立て…考えろ…!!
息をしろ…動け… 立て…!!





ゾーンが やられる…
街が沈む… 朝が来ない… 動け…

動け…立て…
立て…!!
息をしろ!!
考えるんだ…

息… 「ハァ ハァ」 考… 「ハァ」 動…
叫べ…
「ハァ ぉ お… おぉ」

叫べ…!!!
「うおおぉぉおぉおぉ」

「!!!」





「!!!
空間移動!?」

「?」

「まさかっ!!?」





「ま、まつんだ ナハト!!!」
「その機械の中でオリジンを開けてはならない!!!」

「機械に充満したエネルギーが逆流してオリジン自体が壊れてしまうぞ…」
「朝に向かうことはないじゃないか!!
夜に帰ろう ナハト…!!!」





「五年の夜は長すぎた…」
「でもたった一日のことのように…」

「朝は必ずやってくる」























「ザコロボは動かなくなったみたいだな」

「アーベントは死んだようです モルゲン王」
「うむ そうだな」

「アーベントも死に 長い夜も明けた」
「街の再興も そう遠くない未来 叶うであろう」

「それにしても…」
「ナハト君は一体どこへ…
空間移動できるし





「メールが届かない…」 「街がめちゃめちゃだ…どうなってんだ いったい…」
「発電所が崩落だってよ」 「あいつ大丈夫かな…」

「すいません 郵便竜さん」





「切手も住所も無いけれど… この手紙を」

「大切な妹がいるんです…」
「どうか手紙を届けてください」

「生きたいと思えば…
何千年だって生きられるし」
「街のためを思えばエネルギーだって作り出せる」





「しかし私の力は“形”にしかならないんだよ ナハト…」
「空間なんて…」

いやだ!!! オレは行かない!!!

発掘屋のアーベントがオリジンと重力兵器を掘り出してしまった!!
ナハト!!!
私と一緒に街を出るんだ キミも利用されて殺されてしまうぞ!!!

かまうもんか!!!
オレは街が大好きなんだ…!!





ならば仕方あるまい…!!

キミの記憶を…!!!

さよならのかわりに おかえりを言うよ…
きっと… きっと夜に帰ってくる キミのことを思って…





「ボクはこの街で手紙を届けるよ」
「みんなが幸せになれるように…」

「そしていつか この街の毎日を手紙にして届けに行くよ 長い…」
「長い長い… クェイルが読み切れないくらい長い手紙を書くよ…」

「だから それまで…」

「ボクを忘れないでね」


〜Fin〜


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